suntory design

DESIGNERS TALK 02

ここにあるのは、「カオス文化」。
カオスだからこそいいんです。

デザイン部の変化と進化をリアルに体感してきた部長の桐元さん。他社の工業デザイナーからサントリーのマーケティング部門を経てデザイン部へという、ちょっと異色な経歴の牧野さん。そんな二人が、サントリーデザイン部の今を紐解きます。

桐元晶子

多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業後、サントリー入社。
サントリー烏龍茶リニューアルをはじめ、伊右衛門、特茶等無糖茶を中心に、機能性飲料・海外製品・チューハイ等酒類の開発に携わる。 現在はデザイン部長として部署のマネジメント及び商品デザイン開発の全体統括を行なっている。

牧野喬

千葉大学大学院デザイン科学専攻卒業後、精密機器メーカーに入社し、プロダクトデザイナーとしてプリンターなどのデザインを担当。その後、サントリー食品インターナショナルに入社し、天然水・特茶のマーケティング部署で1年間、新規事業開発の部署で約3年間勤務。現在はデザイン部に異動し、サントリーウエルネス全般のデザインを担当している。

デザイン部、こんな感じです

桐元
桐元

そもそも牧野くんは、工業デザイナーから飲料のマーケッターという異色のキャリアだよね。

牧野
牧野

僕は「どんな商品をつくるか」というスタート地点からかかわりたくてサントリーのマーケティング部門(※以下マケ部)に転職しました。というのも、デザイナーというと「商品を仕上げる役割」という感じが強くて企画までなかなか入って行けないというイメージがあったからです。でも、サントリーでは商品開発のすごく早い段階からデザイナーが関わっていますよね。

桐元
桐元

マケ部にいた時は、デザイン部ってどんな風に見えていたの?

牧野
牧野

一人ひとりの個が立っているプロフェッショナルな人の集団という感じですかね。マケ部は日頃からデザイン部を頼りにしているところがあったし、「デザイン部に頼む前に自分たちもきちんと考えをつめておかなきゃ」という意識が結構強いんです。一定の緊張感がある関係という感じで。「一緒につくっていくんだから、そっちも本気になってよ」と常に言われているような感じでした。

桐元
桐元

なるほど。ではマケ部からデザイン部に移ってみてどうですか?

牧野
牧野

そんなに変わらないというのが正直なところです。普通、マケ部はキッチリしていて、デザイン部は自由、みたいなイメージがありそうですが…不思議とそんなに雰囲気が変わらないんですよね。どっちもきっちりしているところはあるし、どっちも自由なところがある。きっと日頃から一緒にチームになって商品開発をしているからだと思います。

桐元
桐元

デザイン部っていろいろな部署の人たちと一緒に仕事してるからかな、クローズドな感じはないのかもね。

牧野
牧野

デザイン部のワークスペースも面白いですよね。隣の部署とのパーテーションもないし、空気感自体は他部署とさほど変わらないけど、「デザイン部だな」という雰囲気は感じます。机や作業場等の設備はデザイナーが仕事をしやすいように、すごく最適化されているので、デザイン作業はとてもしやすいですね。

桐元
桐元

以前はもっと個人のブースがパーテーションでしっかり仕切られているレイアウトで、他の部署からするとちょっと近寄りがたいイメージがあったみたい。部としてはすごくまとまりがあってそれはそれで居心地もよかったんだけど。 でもある時、「内にこもって他の人とあまり関わらないのはどうだろう」「それでいいのか」という話になって。デザイナーがカウンターパートとしてさらに重要視されはじめた頃だったこともあり、そこから皆でディスカッションして、「もっと開かれたデザイン部になろう」とオフィスの大規模なリノベーションを行うことになった。それが、今の形のもとになっているんだよね。 ※カウンターパートとは:対等な立場で同じ目標を持ちながら、違う視点で意見を出せる関係性とサントリー内では定義してます。

イメージはサバンナの水飲み場

桐元
桐元

デザイン部オフィスのリニューアルコンセプトは「サバンナの水飲み場」。大きな池があってキリンとかライオンが水を飲んでいる横にヌーがいたりするような、そういうイメージかな。 フリーアドレスのデスクは、自分たちだけでなく他部署の人もいつでも自由に使ってもいいようにしました。ただし、従来のオフィス家具とは違う、デザイン部らしさをしっかり出そうと。扉はパーッと開け放っているけどここには他とは違う何かがあるぞ、みたいな。 ※フリーアドレスとは:固定の自席を持たず、自由に働く席を選択できる形式のこと。

牧野
牧野

たしかに、他部署の色々な人が集まっている様子は、サバンナの水飲み場でありオアシスのような感じかも。

桐元
桐元

実は「自分たちと同じようなオフィスにはしてほしくない」という意見は他部署からも出たんだよね。もっと近づきたくはあるけれど、クリエイターには自分たちとまったく同じであってほしくない、ある種の「結界」をもっていてほしいと。

牧野
牧野

そうだったんですね。自分たちからではなく、他部署から言われたというのは意外でした。

桐元
桐元

それで、ちょっと工夫してみようと思って。提灯をぶら下げたり、天井をぶち抜いてパイプが見えていたりとか。隣の部署との間になんのパーテーションもないけれど、机が整然と並んで蛍光灯が灯っているスペースとは明らかに違う空間を目指すことにした。

牧野
牧野

たしかに。すっと入りやすいけど、一歩踏み入ると「なにかちょっと違うぞ」というような。

桐元
桐元

棚に100個以上並んでいる木箱は手作りだし。過去の製品をイラストに起こして、自分達で1枚ずつ焼印で仕上げてったものなのよね。そういうものが1個でもあると、オフィス家具が並んでいるのとは違う空気感を醸し出してくれるんじゃないかって。

牧野
牧野

自分たちの手で作っていくというところは、普段の仕事と同じでデザイン部らしいですね。

一見ぐちゃぐちゃ、でもそこには…

桐元
桐元

もう一つ「ガレージ」というコンセプトもあったの。スティーブ・ジョブスが自宅のガレージから起業した、あのイメージ。ちょっと自由な感じというか、整理整頓された空間ではなく色々なものが散らかっている場所。その中でどれだけアイデア出して面白いことができるかを大事にしたくて。ガレージってどこかガチャガチャしているでしょ?

牧野
牧野

たしかにガレージ感は感じます。

桐元
桐元

道具が吊ってあったり、いろんなものが雑然と並べられたりして、あまりきれいじゃないけれど全体の雰囲気は保たれていて、そこからなにか発想が出てきそうな、そんなスペース。

牧野
牧野

真っ白で整然としたデザイン事務所のイメージとは真逆というか。まあ、そういう感じはサントリーらしくないし、デザイン部で働いている人もそういう感じじゃない人が多い気がする。

桐元
桐元

まずはどんな空間にするかを皆で考えようと、色々な部署の人たちとワークショップを開いたんです。そこで事前に「サントリーらしさを象徴するような写真を撮ってきてください」とお願いしたら、皆、ごちゃごちゃな写真ばかり撮ってきたのね。がちゃがちゃな机の上とか、まさにカオス!っていう感じの写真ばかり集まって。で、そういうのを良しとする企業文化があるんだなとあらためて認識した。

牧野
牧野

仕事もそうですよね。作り込んで完成に近いものを提示して選ぶという進め方も一方にはあるけれど、サントリーはある意味、未完成な状態を見せながらいろいろ話して詰めていくやり方だし。真っ白な整理されたスペースより、こっちの方が合っているんだろうと思います。

桐元
桐元

きれいに整った料理を出されるとチャチャが入れにくいですよね。なかなか「まずい」とは言いにくい。でもフライパンで炙っただけの料理だったらちょっと味見して「塩が足りないかな」って、

牧野
牧野

言えますよね。

桐元
桐元

そういう言いやすい状況というのは特徴だと思うの。とりあえず早く出す、あったかいうちに食べてみる。

牧野
牧野

めっちゃ議論するし、何時間でも喋ってますよね。皆でワイワイ喋りながら次第に価値とかインサイトがはっきりしていくという感じがある。カオスが文化として受け入れられているんだなとよく思います。

桐元
桐元

ぐちゃぐちゃが嫌いな人はけっこうつらいかも。

牧野
牧野

たしかに。(笑)

無駄って実はムダじゃない?

桐元
桐元

だから完璧じゃないと見せたくないとか、こんな状態で出したら恥ずかしいとか、そういう羞恥心を脱ぎ捨ててもらうことが打合せでも大事なんだよね。「正解は一つじゃない」という考え方もすごく大事にしている。

牧野
牧野

正直、僕としては最初とてもやりにくかったですよ。デザインを検討するときはAとBを出して、どちらかに方向を決めたら、さらに深めてA、Bを作ってを繰り返して方向を狭めていくのが普通のやり方だと思ってました。ところがサントリーでは「じゃあ両方やってみよう」「Cを探そう」という時が多い。AかBかどちらかに決めて、それを掘り進めていく方がいいんじゃないかとずっと悩んでいたんです。

桐元
桐元

そうだよね、「これどうなっていくんだろう」と思っちゃうかも。たしかに悩むと思う。

牧野
牧野

事業部にいた時ですが、顧客データを一元化してダッシュボードにまとめるという仕事をやったことがあって。それまではいろんなところにデータが散らばっていたので、探すのに手間がかかって効率が悪く…。僕としてはデジタルを使った仕事の効率化は当たり前の話だと思っていたんですが、「効率化することでなくなるものがあるんじゃない?そこをちゃんと定義して、両立させなければ」と指摘されて。AとBの一面だけを見てどちらかに決めるんじゃなく、複数の視点から見た良いところを包含することが重要なんだと。

桐元
桐元

まあまあ無駄なこともするからね。「それ、無駄!」みたいなことも普通にやるし。

牧野
牧野

でもその無駄なことからなにかいいことが起ったりするんですよね。

桐元
桐元

生産性を考えていないわけじゃないし効率化だって進んでいるけれど、一方で「無駄の大事さ」もすごく意識している気がする。

牧野
牧野

サントリーの企業文化ってことなんですかね。

桐元
桐元

合理的じゃない判断をして勝ってきた経験があるからかも。たとえばソロバンをはじいたらこっちの方がずっと効率的だったとか、消費者調査では圧倒的にこっちの方が点数がよかったとかいう場合でも、「それ、ほんとに魅力的?」とチームの皆が思ったなら違う選択することもあるし、直感に賭けて勝ってきたという蓄積がされているように思う。

牧野
牧野

そういえばサントリーの入社面接でも言われました。「調査で1位じゃなくても、自分たちがいいと思ったらそっちを選ぶんだよ」って。”調査で良かったから”の方が説明しやすいのに、“自分たちが良いと思った”という説明しづらいことをやるのって大変だなと思ったんです。
「でもそれがカルチャーだからね。それを守るために頑張っているんだよ」と言われたんです。面白い会社だと思った覚えがあります。

桐元
桐元

数字で表れたもののほうが安心だけど、そうじゃないほうを選ぶ時って、ほぼそこにいる大多数が「こっちのほうがいい」と思う時なのよね。そこにはやっぱり、なにかがあるんだと思う。

デザイナーがチームで求められること。

牧野
牧野

サントリーでは商品の企画段階からデザイン部がすごく期待されていると感じます。以前、とある商品化のプレゼンテーションの後に、役員から直接僕に電話がかかってきたことがあって。「このチームに君はデザイナーとして加わっているのに、どうしてこのチームはユーザーやインサイトのことを深堀りできていないのか?」「我々マケ部のカウンターパートとしてちゃんと機能してくれ」って。デザイン部に来てまだ間もない頃だったんですが、ものすごく驚いたし、反省しています。

桐元
桐元

いるからにはちゃんとその価値を出してほしい、きちんとコミットしろということだよね。

牧野
牧野

サントリーではものすごくデザイナーの役割が期待されているんだと伝わってきたし、商品開発の重要な機能としてちゃんと認められているんだと痛感しました。直接電話をかけてもらったこともその現れだと思います。僕は甘かったなと。

桐元
桐元

上司とか部下とか、役職がどうだとか、そういうのってサントリーではすごく緩いかも。

牧野
牧野

風通しがいいですよね!他部署との関係もそうだし、デザイン部内もそうじゃないですか?上意下達がほとんどないというか。だって桐元さん、プレゼン前に僕のデザインをチェックしたりしませんよね。

桐元
桐元

しないね。ここではチームの仕事はチームでやる、部長だからって私がそれを全部事前にチェックするわけじゃないし。プレゼンしてもらう段階で初めて見ることも多いんだよね。そこでダメだと思ったらその場で「ダメ」と言うし。

牧野
牧野

それ、けっこう特徴だなって思うんです。上司がオーケー出さなければ、プレゼンに出せないのがふつうだから。

桐元
桐元

それに年齢や役職で仕事まで変わるわけでもない。全てのメンバーがその時、そのプロジェクトに応じてディレクターやデザイナーとしてチームにアサインされる仕組みだから。そのぶん、個人にかかってくる責任は大きいよね。

牧野
牧野

たしかに責任の大きさは感じます。

桐元
桐元

それだけに知識もがっちり吸収できるから、それぞれがカウンターパートとして機能できるようになる。いろいろな事業に関わっているから「他の事業ではこういう感じだったよ」と進言できるし、それが本当に役に立つのよね。

牧野
牧野

個人が責任を持って動くという文化は、デザイン部に根づいているんですね。

桐元
桐元

商品化チームにいる担当デザイナーは自分だけ。上司はいないわけだから責任感の意識は嫌でも鍛えられるよね。ある意味で権限も渡してもらえるし、自由にできる。そうそう、休暇も自分裁量だよね、仕事さえちゃんと押さえておけば誰もなにも言わないし。

牧野
牧野

とはいえ、移ってきてまだ半年の僕からすれば「これでいいのかな」と不安になることもやっぱり多いです。1年目からたくさんの案件を同時に担当することになるから、必然的に手を動かさなければならないし、いろいろな人と組むことになる。個人的には、けっこういい歳になって失敗するのってやっぱり怖いなって思ってしまうんですよね…

桐元
桐元

そんなことないよ。いくつになっても失敗することはある。だから心配しなくていいんじゃないのかな。

牧野
牧野

でも…やっぱり自分は工業デザイナー出身なので、グラフィックデザインには自信が持てないんですよね。

桐元
桐元

要はクオリティコントロールはどうすればいいのかってことだよね。でもそれは、信頼のもとにチームの意志に任せているということで。

牧野
牧野

クオリティコントロール自体も個人と商品化チームが負うということですね。

桐元
桐元

それに、デザイン部にいると、なんだかんだ周りが気づいて声かけてくれること、ない?「これはちょっと」「こうしたほうがいいんじゃない?」みたいに。

牧野
牧野

確かにこの前も、机の上に置いてあったデザインについて皆がわいわい言っていて…。あとからメールで「こうしたほうがいいんじゃない?」ってアドバイスしてくれる人もいて、「やさしいなぁ。」って。

桐元
桐元

おせっかいなおじさんや世話焼きおばさんがいるからね。

牧野
牧野

無駄そうな雑談も実はとっても大事だったりするし、横道にそれながらというのが、うちの場合は意外と機能している気がする。

個性と人情あふれる商店街

牧野
牧野

「デザイン部は個人商店の集まった商店街のようだ」ってよく他の部署の人も言いますよね。一人ひとりが個性的で得意分野も人それぞれ。わりと個人で仕事をしているんだけど、一応商店街としてのまとまりはあるし、中に入ると商店街の一員としてやさしくしてくれる。新しく加わった人にも、皆が気にかけて教えてくれるというようなところがすごくある。

牧野
牧野

こういう色々な個性の人がいる環境だと、誰か一人をロールモデルにするわけじゃないから、若い人はどう育っていくんですかね…?

桐元
桐元

「学ぶは真似る」と言うじゃない?見様見真似というか、まずは気負わずに周りを見て「こういう感じでいけばいいんだ」「言っていいんだ」と自然に覚えていってほしいな。バッターボックスに立つチャンスはとにかく多いから。真似た上で「自分だったらこうする」を常に考え続けていって、それぞれが主体的に動き考えるクリエイターに成長していくんだと思う。その結果個性が集まるけどちゃんとサントリーの特徴を持った集団になっていく

牧野
牧野

なるほど。ガレージのようなカオス感は出しているというより、自然と生じてくるものなんですね。

桐元
桐元

その独特のカオスがサントリーデザイン部のユニークさにつながっているんだろうし、それを伸ばしていけたらいいよね。もっともっと濃いものにして、次代にちゃんとバトンを渡していきたい。ここ数年、世の中も働き方もすごく変化しているけど、それでもここの良さというのはきっちり継承していきたいかな。

牧野
牧野

いろいろな個性が集っているのがデザイン部というわけですよね。まさに多様な動物が集まってくるサバンナの水飲み場のイメージだなあ。

桐元
桐元

そうなんだよね、他部署の人も自由に出入りできるオープンな水飲み場になって、人や情報が行き交ってくれたらいいなと思う。そのためにもデザイン部が育んできたカルチャーをもっともっと濃度を上げていかないと。いろいろなお店の種類を増やしたり、大きくしたり…商店街を大きくしていく感覚なのかもね。

牧野
牧野

つまりデザイン部って…ガレージでもあり、水飲み場でもあり?商店街でもある…ってことですよね。

桐元
桐元

ね、やっぱりカオスでしょ。

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