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DESIGNERS TALK 04

海外勤務で日々チャレンジと発見を


サントリーの商品開発を、日本から世界へ。

デザイン部では海外を拠点に活躍するメンバーもいます。今西さんは2021年からタイに、山岸さんは2022年からフランスにそれぞれ赴任。現地での商品開発に携わる毎日について語りました。

今西彩夏

武蔵野美術大学を卒業後、広告系デザイン会社、食品メーカーのデザイナーを経て、サントリーへ入社。
入社後は主に〈伊右衛門 特茶〉や〈ペプシ〉などのデザインを担当。現在はサントリー食品アジアパシフィックに在籍し、〈TEA+〉〈OKKY〉〈BRAND’S〉〈goodmood〉などの商品開発を行っている。

山岸彩乃

首都大学東京(現 東京都立大学)システムデザイン学部を卒業後、サントリー入社。
主に〈ほろよい〉〈天然水〉などのブランドを担当。〈伊右衛門 特茶〉〈TOUCH-AND-GO COFFEE〉などの容器開発も行なった。現在はサントリー食品インターナショナル ヨーロッパ株式会社 マーケティング部門にて〈OASIS〉などの商品開発に携わっている。

私たち、こんな仕事をしています!

−−−海外でのお仕事はどうですか?

山岸
山岸

個性豊かな現地のメンバーに刺激をもらいながら、日々楽しく商品開発をしています!自分の価値観が覆されるような新しい発見が多く、視野がぐんぐん広がっていることを実感しています。

今西
今西

海外で仕事をするのも生活するのも生まれて初めてなので、全てが楽しいです。

−−−なるほど!では、具体的には、どんな仕事を?

今西
今西

私はタイに滞在してアジア太平洋地域(APAC)を担当しています。各ブランドのマーケティング担当者や中味の開発者、社外デザイナーと一緒に商品開発やデザインの仕事をしたりなど。立場としては日本のデザイン部にいたときと同じ感じですね。

山岸
山岸

私はマーケティング部門に所属して、ヨーロッパ全体のブランドを担当しています。各国のグループ会社にサントリーの商品開発のノウハウを実践しながら伝えるのが私の役目です。メインで担当しているブランドはUKの〈Lucozade〉とフランスの〈OASIS〉、約20カ国で展開している〈Schweppes〉、などがあります。

今西
今西

サントリーではデザイナー、中味の開発者、ブランド担当マーケッターが一緒になってコンセプトづくりやネーミングづくりまでするということが強みなのですが、そのやり方はまだまだ海外拠点に浸透していないんです。現地のメンバーにも「そのやり方が面白い」「理にかなっている」と思ってもらうことが大事ですよね。

山岸
山岸

私の場合はデザイナーではなく、ブランドマネージャーをサポートする立場。つまり、サントリーの商品開発のやり方について理解してもらい、良いクリエイティブに繋げてもらうことが目的です。インサイトの深掘りや、仮説と検証の繰り返しの重要性など、実際の商品開発やワークショップを通して現地のメンバーに伝えています。

今西
今西

お客様のインサイトにがっちり入って行くというのがサントリーのやり方で、それを英語という共通言語で伝えていくわけですよね。

山岸
山岸

「時にはコンセプトに立ち戻ってやっていきましょう。」って話をしても、「それって何の意味があるの?」「効率が悪いのでは?」と…半信半疑のまま、とりあえずやってみるという感じでした。でも、仮説と検証を繰り返す中で新しい発見があった時、「なるほど!このやり方って良いかもしれない」と気づいてくれたんです。小さな一歩ですけど。

ハードルはいろいろ。でも乗り越えるのが面白い

−−−海外で仕事するとなると、やはり英語ですよね?

今西
今西

そうです。私が担当するAPACでは英語がネイティブのニュージーランドやオーストラリアの同僚もいれば、英語がネイティブじゃないベトナムやタイの人もいます。英語でのコミュニケーションにはいまだに苦労しているところはあるけれど、それでもなんとかやってます。

山岸
山岸

私はフランスやスペインに展開しているブランドも担当していますが、みんな英語を使って議論をします。英語がネイティブじゃない人たちとは割とスムーズなやり取りができていると感じていますが、英語ネイティブの人とのコミュニケーションにはいまだに苦労しています。

今西
今西

たしかにネイティブとの会話のほうが難しいですよね。でも正直、心配していたよりは何とかなっているかなと感じています。現地に赴任するまではどのくらい議論が成立するのかかなり不安でしたが…。

山岸
山岸

重要なのは、きれいな表現ができることでもうまく喋れることでもなく、自分のキモチや意向がちゃんと伝わるかどうかだと思うんです。言語の壁はあるけど、それ以上に自分の頭で考えて伝えることがすごく大事なんだと、現地で働いてみてよくわかりました。わからない時は恥ずかしがらずに「今なんて言ったの?」「それってどういう意味?」と聞けばいいんだ、って。

今西
今西

言語のハードルは確かにあるけど、それ以外の苦労もいろいろありますよね。文化とかキャラクターとか。私、1年以上タイに住んでいてもタイプフェイスのデザインでどれがカッコいいとか、伝統的に見えるとかいう感覚はまだまだまったくわからないんです。日本語のニュアンスならわかるけど、文化知識のない言語はやっぱり判断が難しくて。

山岸
山岸

言葉の感覚の違いは私も感じています。たとえば「現代的」は英語で「モダニティ」だけど、現代的そのものの解釈が日本とフランスとUKでは全然違うんですよ。「私はこのテイストがモダニティだと思うんだけどな」「いや、それはちょっとオーセンティックだよね」ってなっちゃう。カルチャーによってデザインの視点やポイントも違ってきますね。

今西
今西

例え話がわからないという問題もありますよね。「このブランドのキャラクターって女優の〇〇さんっぽいよね」「サッカー選手の○○さんのようだね」というのが伝わらないとか。

山岸
山岸

ありますね!サントリーではよく商品を人に例えて話しますもんね。

今西
今西

海外の調査で「この商品は人に例えると誰ですか」と聞いて「女優の○○さん」と言われてもピンとこない。ローカルのマーケティング担当の方に噛み砕いて説明してもらってなんとなくわかるという感じで。

山岸
山岸

コミュニケーションの難しさって、言語だけじゃないですね。

現地のカルチャーと商品開発のつながり

今西
今西

とはいえ、意外と根っこは万国共通だなと思うことも多いんです。たとえば商品開発の切り口を考えるとき、お客さまの抱えている「負(ふ)」について話すことがありますよね。ふだんどんなストレスを抱えているか、悩んだり困ったりしていることはなにか、とか。これ、国によってコンテクストの違いはあるものの、けっこう通じるんですよね。周りの人に認められたいとか、褒められたいとか…そういった人間のインサイトについては意外と通じるものがあるかも。議論していても盛り上がるし。

山岸
山岸

そういう時ってホント、面白いなぁと思います。文化の壁を乗り越えた感じで。

今西
今西

片やカルチャーに基づいたタイプフェイスデザインなど、感覚を理解するのが難しい場合もあります。そういう時には、良いパートナーを見つけることで乗り切っています。たとえばタイ語のタイプフェイスデザインを専門にしているローカルのクリエイターを知り合いから紹介してもらうとか。毎日が試行錯誤ですが。

山岸
山岸

カルチャーの違いと言えば、私、フランスのバカンスにはびっくりしました。1カ月休みをとるから8月中はほとんど仕事が止まってしまうんですが、フランスの人たちってそれが人生の大きな楽しみの一つになっているらしくて。今まで頑張ったぶん、家族と過ごしてエネルギーをチャージしてるみたいです。それがわかったことで、なぜファミリー向けの果汁飲料〈OASIS〉のキーワードが「Insouciance=気楽さ、のんきさ、という意味」なのか腑に落ちました。要は〈OASIS〉を飲んでいる時間はバカンスのように楽しいことに集中できる時間、家族と過ごすほっとする時間に楽しみを与えてくれるドリンクということなんだな、と。どこでいつ飲むのか、その違いが商品にも表れているような気がしました。

今西
今西

なるほど。カルチャーの違いが商品にも出てくるわけですね。

山岸
山岸

そうなんですよね。さらに、同じヨーロッパの中でもそれぞれの国ごとにキャラクターが全く違います。その違いは、休暇の取り方からスケジュール管理、議論の進め方など日常のいろいろな場面に影響を与えているように感じます。

今西
今西

ヨーロッパも文化・人種が多彩ですが、私とは違う苦労がありそう。

山岸
山岸

だからコミュニケーションもそれぞれ工夫して、相手によって使う頭を切り替えたりしています。抽象的な思考に偏りがちなタイプの人には物事がスムーズに進むように型をつくって具体的な説明をする、ロジカル思考に偏りがちなタイプの人にはもう少し抽象的に考えてみましょうと持ちかけてみる、とか。

現地だからわかること、いっぱいあります

−−−いろいろ日本にいる時とは違う苦労もあるんですね。

今西
今西

それはそうですけど、圧倒的に私はこっちに来てよかったと思っているんです。日本から遠隔で海外の仕事をしていた時よりも断然やりやすいですし。

山岸
山岸

それはありますよね。

今西
今西

ひとつは状況がわかりやすいこと。現地じゃないと見えないことがたくさんありました。なぜこういう意見が出てきたのか、そのプロセスや背景がわからないと理解しにくいことも多いし。同じ空間で仕事をしていれば、相手のことも人間関係もいろいろ見えてくるから結果としてすごく仕事がやりやすくなりました。

山岸
山岸

それ、わかります!〈Schweppes〉のプロジェクトは日本にいる時から参加していてメンバーもほぼ同じだったんですけれど、どこかわかり合えない部分をずっと感じていたんです。それがフランスで仕事をするようになってからすごくやりやすくなって。ちょっとしたことでもすぐに話したり相談できるし、調査に現地メンバーと一緒に参加をすることでその場ですぐに意見を交換し合える。日本とヨーロッパでは時差もあったし、そもそも実際に会ったことがないまま仕事していたから、いろいろな意味で距離感があったんでしょうね。物理的に距離が近づいたことでずいぶん解消された気がします。

今西
今西

もうひとつよかったのが、実際に体感できることですね。タイに住みながら商品開発をするのは、日本にいながらタイの商品開発をするのとは全然違うなとすごく実感しましたね。

山岸
山岸

というと?

今西
今西

私、日本にいた時は甘い飲料をほとんど飲まなかったんです。でもタイは一年中暑いし、15分外を歩くだけでも体が本能的に甘いものを欲するんですよ。「この風土では生きるために甘い飲み物が必要なんだ」って肌で感じました。風土や気質を実感しながら仕事をすることって、本当に大切だと思います。

山岸
山岸

それ、すごく大事ですよね。私もよく、マーケットビジット的な気持ちでフランスの色々な場所を訪ね歩いています。〈OASIS〉がどんな感じで飲まれているのか、食文化とか歴史的背景とかに触れるのが、目下のいちばんの楽しみですね。休日は旅行気分で、近隣のスペインやドイツにちょっと行ってみたりもします。

今西
今西

私もちょくちょくいろいろなところに出かけて。美術館やギャラリーにも行きますが、大きな企画展のようなものは日本のほうが多いのがちょっと羨ましいです。

山岸
山岸

フランスは本当にアートが日常に根づいていて、そこは日本に負けてないかも。大きな展覧会もいっぱいあるし、週末にはふつうに家族で美術館に行くし、いつ行っても混んでます。そうそう、フランス人って日本の文化にものすごく興味を持っていて、しょっちゅう日本エキスポのようなものとか漫画やアニメの展覧会もあるんですよ。

今西
今西

そういうのも海外で暮らして初めて実感できることかも。

今西さんがインドネシアへ市場視察しに行った時の写真。一緒に写っているのは、現地のマーケッターとセールスの人。

日本のことも、いろいろ発見がありますよ

今西
今西

日本についてもいろいろ見えてきますよね。たとえば「日本のおもてなしは素晴らしい」と言われますけど、それは本当にそうだと思いましたね。日本のショッピングモールで困ったらカウンターに行けばなんでも教えてくれるけど、こっちは必ずしもそうじゃない。店員さんがいつも「いらっしゃいませ」と即座に向かえてくれるわけじゃないし。でも慣れてくるとそんな感じでもいいんじゃないの?と思えてきたりして。

山岸
山岸

私もフランスに住んでみて、アパートは水漏れするし、飛行機は直前に突然キャンセルになるし、地下鉄はしょっちゅうストで止まる。コンビニはないし、鮮度のいい野菜はスーパーで買いづらい。生活してみると無茶苦茶不便なことが多くて…日本での生活がどんなに恵まれていたか実感しています。でもフランスの不便さに逆に惹かれるところがありますね。フランスでは不便ささえもユーモアにしてしまうところがあって、これはこれで気持ちが豊かだなと思えて。

今西
今西

仕事でもこっちに来て初めて気づいたことが多々ありましたね。いろいろな国の同僚がいる中でブランドアイデンティティを継承するには何らかのマニュアルがないと難しいのかな、とか。サントリーではブランドマニュアルを作ることをあまりしないけれど、こうして海外に出てみるとその必要性も感じています。

山岸
山岸

日本人同士ならなんとなく分かり合えそうなことも、言語化して伝えないと共有できないことが多い。しかも、海外だと転職をしたり休暇を取って長い間オフィスを不在にすることも当たり前なので、次に担当する人のために伝える準備をしておくという文化があります。海外ならではのいい部分ですよね。そういう部分は、私たち日本人も学んでいきたいなと思うんです。

今西
今西

日本と海外、双方でお互いの良さをうまく取り入れていきたいですよね。

成功も失敗も、全てが面白い体験!

−−−ところでお二人が海外赴任したきっかけは?

今西
今西

大学生の頃から、海外で働くことが大きな夢だったんです。ゼミの教授の紹介で海外の学生と一緒にワークショップをやったことがあって、違う国の人と一緒に物をつくるのってすごく面白いと思ったんです。当時は英語も全然できなかったし、スムーズにコミュニケーションできたわけじゃないんですけど、それでも楽しくて。その夢が、今回ようやく叶ったというわけです。山岸さんは?

山岸
山岸

私は新しいことにチャレンジすることにすごく興味があって…もともと好奇心が強いんですよね。海外という未知の世界に飛び込んでみたいと思い、実は入社した時から上司や先輩に「海外で働いてみたいけどどうしたらいいんだろう」って相談していたんです。そして今回、そのチャンスが来たという感じ。

今西
今西

実際に海外に来てみて、いろいろな人に出会い、いろいろな考え方や文化に触れて「こうやって世界が広がっていくんだな」と実感しています。これからもっともっといろいろな国の人と話したいし、いろいろな国に行って働いてみたい。自分の世界や価値観を広げるためにも。

山岸
山岸

やっぱり海外を経験するってすごくいいことですよね。自分が今まで考えもしなかった価値観に出会うことで、これから見る世界がどんどん変わっていくような気がするし。私や今西さんのような経験をもっとデザイン部の人たちにどんどんしてほしいなって。

今西
今西

私もそう思います。

山岸
山岸

そういえば数年前になりますけど、デザイン部では英語力アップということで独自にいろんな企画をやっていましたよね。「レッツ・デザイングリッシュ!」だったかな。社外からネイティブの先生を招いて、2週間に1度一人5分くらいのプレゼンテーションをした後みんなで英語でディスカッションするってやつ。海外とのやり取りが一気に増えてきたこともあって、デザイナーもグローバルな対応力を身につけようということで。

今西
今西

私たちが海外のデザイナーを招いたり、海外へ研修しに行くこともありましたが、逆に海外のグループ会社から日本のデザイン部へ研修に来る人もいましたね。

山岸
山岸

ありましたね。そういったひとつひとつの機会がすごく私には印象的な経験でした。だから今度は私が、デザイン部との交流や研修の企画をしてみたいなと思っています。

今西
今西

そういった機会があるのは素敵ですね!海外の仕事にチャレンジする中で、時には失敗したり落ち込むこともありますが…

山岸
山岸

失敗した時はどこにいても美味しいものを食べて気持ちを切り替えるのがいちばん!それに今はデジタルでつながるからいつでも日本にアクセスして身近な人に相談することもできますし。

今西
今西

そうですね。それに、失敗で落ち込むことよりも、ワクワクすることの方がもっとたくさんあります。

山岸
山岸

成功も失敗も含め、面白い体験がいっぱいですね。

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